熱力学など、勉強ログ

主に熱力学。授業内容というよりは勉強の疑問と解決のログを目指します

六方晶の4指数記法(と3指数記法との対応関係)

この記事では,六方晶系の面指数・方位指数における4指数-3指数の対応関係について備忘録として簡単にお話しさせていただきます.

多くの結晶系において面指数・方位指数を付けるときは3つの結晶軸と対応した3指数を用います(図1(左))が,
六方晶系ではa1軸, a2軸, a3軸, c軸の4つの結晶軸(図2(右))と対応した4指数を用いる場合がほとんどです.( \vec{a3} = -(\vec{a1} + \vec{a2}) )

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図1 立方晶や斜方晶における結晶軸の選び方(左),六方晶における結晶軸の取り方(右)

六方晶は6回回転対称軸または6回回反対称軸を持っている結晶系であり,a1軸, a2軸, a3軸を同種のベクトルとして扱う(=4指数を用いる)ことで,等価な結晶面や結晶方位がわかりやすくなるという利点があります.
しかしながら,解析に用いるソフトウェアが4指数に対応していないなどの理由で六方晶系でも3指数を用いる必要がある場面を個人的には経験してきため,3指数と4指数の対応関係についてまとめておきたいと思います.

六方晶系で3指数を用いる場合は a1軸, a2軸, c軸(図2(右))の3つを結晶軸として用います.

ここでは3指数, 4指数についてそれぞれ
方位指数:[u v w], [U V T W]
面指数:(h k l), (H K J L)
と記述します.

4指数の記法では,3次元空間におけるベクトルを4つの変数で表現するため(変数が過剰になってしまっており)
方位指数:U + V + T = 0
面指数:H + K + J = 0
というルールがあり,同じ方位/面を表す際に一意に書けるようになっています.

両者の対応関係はそれぞれ
 {\displaystyle
\begin{eqnarray}
 \left\{
  \begin{array}{1}
   u = U-T \\
   v = V-T \\
   w = W \\
  \end{array}
 \right .
\end{eqnarray}
}

 {\displaystyle
\begin{eqnarray}
 \left\{
  \begin{array}{1}
   U = \frac{2u-v}{3} \\
   V = \frac{2v-u}{3} \\
   T = \frac{-(u+v)}{3} \\
   W = w
  \end{array}
 \right .
\end{eqnarray}
}

 {\displaystyle
\begin{eqnarray}
 \left\{
  \begin{array}{1}
   h = H \\
   k = K \\
   l = L \\
  \end{array}
 \right .
\end{eqnarray}
}

 {\displaystyle
\begin{eqnarray}
 \left\{
  \begin{array}{1}
   H = h \\
   K = k \\
   J = -(h+k) \\
   L = l
  \end{array}
 \right .
\end{eqnarray}
}

となっています.

結晶方位に関してはベクトル表記が単純なので, \vec{a1} + \vec{a2} + \vec{a3} = 0 により
 u \vec{a_{1}} + v \vec{a_{2}} + w \vec{c} = U \vec{a_{1}} + V \vec{a_{2}} + T \vec{a_{3}} + W \vec{c}
が満たされることがわかりやすいと思います.

例)最も基本的な例として
 [2\ \overline{1}\ \overline{1}\ 0]  [\overline{1}\ 2\ \overline{1}\ 0]  [\overline{1}\ \overline{1}\ 2\ 0] はそれぞれ4指数記法でa1軸,a2軸,a3軸を表し,まとめて \{2\ \overline{1}\ \overline{1}\ 0\} と書けます.
このように六方晶における等価な方位指数・面指数は,4指数記法の1~3番目の指数を循環させることで表現することができます.
一方これを3指数記法で表すと[100], [010], [110]となり,等価であることがわかりにくくなってしまいます.
六方晶では c軸方位とa軸方位に即した話題がほとんどでa+c方位(={2-1-1 3}),a+2c方位(={2-1-1 6})といった書き方もされます.4指数で考えることが基本となっていると思います.

下記のまとめ中に「2次元の構造を3次元で表現すると見通しが良い」とありますが,(わざと変数を多くした)4指数記法で記述することで理解が易しくなるというのは面白いですね.
https://togetter.com/li/203212togetter.com

加工硬化メモ

塑性域の変形において応力ひずみ曲線は右上に伸びていきます
つまり、ひずみを増加させるために必要な応力もまたどんどん増えていくということで、ひずみの増加に伴い(塑性変形の進行に伴い)変形に必要な応力が増加する
この現象が「硬くなる」、加工硬化の意味だと私はとらえています
その原因は転位の振る舞いでよく説明できます
変形→転位が増殖,蓄積→転位どうしの相互作用による抵抗が増加
といったプロセスのようです

加工硬化は次の3つのステージに分けられるといいます
第I段階(容易すべり領域)
第II段階(直線硬化領域)
第III段階
f:id:atomate:20160510231901j:plain
応力ひずみ曲線における対応は上図のようになっています

第I段階では最もすべりを起こしやすい主すべり系のみが動きます(2次すべり系も少し活動するみたいですが)
加工硬化の度合いは低いです

第II段階では2次すべり系が(第I段階と比べ)本格的に活動し始めます
これにより転位は複雑に絡み合い、固定されます(転位の蓄積)
加工硬化の度合いは最大となります

第III段階では交差すべりにより転位が障害物を迂回するなど、一部の転位が再び動き始めることで加工硬化の度合いは下がります
この現象は動的回復と呼ばれます

van't Hoffの式の導出と使い方

van't Hoffの式はTと平衡定数Kの関係に着目した関係式のようです

  • 導出

平衡状態でΔG=0とすると
 \Delta G^{\circ}=-RT\ln{K}
また
 \Delta G^{\circ}=\Delta H^{\circ}-T\Delta S^{\circ}
より
 \ln{K}=-\frac{1}{RT}\Delta H^{\circ}+\frac{1}{R}\Delta S^{\circ}
この式をvan't Hoffの式と呼びます

導出過程については次のサイトが詳しく解説してあったので、メモとして貼っておきます
www.yakugaku-tik.com


  • 使い方

上にあげたサイトでは、lnKと1/Tの直線関係を使ってその比例係数 \Delta H^{\circ}/Rを求めています
例として書かれているプロットして回帰直線を引いてやる方法など、いろいろできそうですね

  •  \frac{dK}{dT}の値が与えられている場合は、次のように \Delta H^{\circ}を求めることができます

van't Hoffの式をTで微分して
 \frac{d}{dT}(\ln{K})=\frac{\Delta H^{\circ}}{RT^2}
 \therefore \frac{1}{K}\frac{dK}{dT}=\frac{\Delta H^{\circ}}{RT^2}
 \therefore \Delta H^{\circ}=\frac{RT^2}{K}\frac{dK}{dT}

今回は導出はそこまで複雑ではないですが、dK/dTは(私にとって)あまり発想しやすくない量だったので、書こうと思いました

Clausius-Clapeyronの式の導出など

Clausius-Clapeyronの式は次のように表されます
 \frac{dp}{dT} = \frac{\Delta H}{T\Delta V}

  • Clausius-Clapeyronの式の導出

αβの2相の平衡を考えます
 G^{\alpha}=G^{\beta}
温度、圧力が T\rightarrow T+\Delta T, P\rightarrow P+\Delta P
と変化するときも上のイコールが成り立つとすると
 G^{\alpha}(T+\Delta T, P+\Delta P)=G^{\beta}(T+\Delta T, P+\Delta P)
Taylor展開して2次以下の微小項を切り捨てると
 G^{\alpha}(T,P)+\left. \frac{\partial G^{\alpha}}{\partial T} \right |_{P}dT+\left. \frac{\partial G^{\alpha}}{\partial P} \right |_{P}dP
 =G^{\beta}(T,P)+\left. \frac{\partial G^{\beta}}{\partial T} \right |_{P}dT+\left. \frac{\partial G^{\beta}}{\partial P} \right |_{P}dP
差分をとると
 \left. \frac{\partial G^{\alpha}}{\partial T} \right |_{P}dT+\left. \frac{\partial G^{\alpha}}{\partial P} \right |_{P}dP =\left. \frac{\partial G^{\beta}}{\partial T} \right |_{P}dT+\left. \frac{\partial G^{\beta}}{\partial P} \right |_{P}dP

ここでdG=VdP-SdTより(ルジャンドル変換)
 \left. \frac{dG}{dT} \right |_P = -S
 \left. \frac{dG}{dP} \right |_T = V
を上式に代入すると

 -S^{\alpha}dT +V^{\alpha}dP = -S^{\beta}dT +V^{\beta}dP
 \therefore \frac{dP}{dT}=\frac{S^{\beta}-S^{\alpha}}{V^{\beta}-V^{\alpha}} = \frac{\Delta S}{\Delta V}

さらに相転移エントロピー変化は \Delta Hで書けば
 dS = \frac{\Delta H_f}{T}
先ほどの式に代入してようやく
 \frac{dp}{dT} = \frac{\Delta H}{T\Delta V}
が導かれることになります

それでは、実際の問題でどのように用いられるのか見ていきたいと思います

  • 例:1atm下での水の沸点は373K,蒸発熱は2260J/gです。353K(80℃)における水蒸気圧はいくらになるでしょうか
  • 理論:気液平衡でClausius-Clapeyronの式を使う

気液平衡では \Delta V = V_{gas}-V_{liq} \simeq V_{gas}としてよく
Clausius-Clapeyronの式に PV_{gas} = RTを用いると
 \frac{dP}{dT}=\frac{\Delta H}{RT^2} \cdot P
 \therefore (\frac{1}{P})\frac{dP}{dT}=\frac{d(lnP)}{dT}=\frac{\Delta H}{RT^2}
 \Delta HがTに依らないとしてTで不定積分すると
 \ln{P} = -\frac{\Delta H}{RT} + C(Cは積分定数)

またT1からT2まで積分したときは
 \ln{\frac{P_1}{P_2}} = -\frac{\Delta H}{R}(\frac{1}{T_2}-\frac{1}{T_1})

今回はこの式を使います

与えられた条件から373Kで1atmであり、蒸発熱が今回考える353K-373Kにおいて変化しないとすると
 \ln{\frac{P_1}{P_2}} = -\frac{\Delta H}{R}(\frac{1}{T_2}-\frac{1}{T_1})
 \ln{\frac{1}{P_2}} = -\frac{2260\times 18(J/mol)}{R}(\frac{1}{353}-\frac{1}{373})
 \therefore P_2 = 0.4756atm

texで標準Gibbsエネルギーの丸を書く

はてな記法 \TeX(←書いてみたかった)で標準ギブス自由エネルギーを書こうと思った時に、丸をどうやって書けばよいか知らなかったので、メモとして書いておきます

そもそも授業での日本語の読み方が「デルターGまる」だったのでなんやねんと思っていました

はてな記法
[tex: \Delta G^{\circ}] と書けば
 \Delta G^{\circ}
と表示されます

[tex: \circ]と書けば \circと表示されます

https://en.wikipedia.org/wiki/Standard_stateによれば
標準状態を表す記号としては19世紀ごろは喫水線(Waterline)を表すプリムソル(Plimsoll)記号が用いられていました
これは、上のような丸印に横切る形ように直線を加えたもので、今でも使われることがあるようですが
IUPACはこちらではなく上の丸印を推奨しています
EMANの物理学 過去ログ No.7154の書き込みによると、使い分けが存在するケースもあるようです

ちなみに自分が調べた限りでは、TeXの一般的なコマンドでプリムソルを書き出すことはできないようです
(LaTeX • How to draw a Plimsoll?? • Math & Science)

これも自分のメモになりますが、マウスで形を描くだけでその記号名の候補とTeXコマンドを表示してくれるサイトを下に貼っておきます

detexify.kirelabs.org
とても便利です

反応は自発的に進行するか(Ellingham Diagram)

ある温度で反応は自発的に進行するかなど、
反応が進行するか否かについて問われることがあります

基本的には、 \Delta G < 0ならば自発的に進行するととらえるとよいようです

  • Ellingham Diagramなど、既存のデータ集を用いて判定する場合

Ellingham Diagramは、酸化反応の \Delta G^{\circ}の温度依存性をプロットしたもので、合わせて平衡酸素分圧がわかるようになっています
たとえば鉄の酸化反応 2Fe + O_2 \longrightarrow 2FeOでは、
 \Delta G = \Delta G^{\circ} + RT\ln{K}
 K = \frac{1}{p_{O_2}}
平衡が成り立つ時 \Delta G = 0より
 p_{O_2}= \exp(\frac{\Delta G^{\circ}}{RT})
これにより \Delta G^{\circ}と平衡酸素分圧の関係がわかるということになります
平衡酸素分圧がわかれば、金属が酸化されずに存在できるような酸素分圧を知ることもできるということで、便利ですね
DoITPoMS - TLP Library Ellingham Diagrams - The interactive Ellingham diagramではFlashPlayerで任意のEllingham Diagramを表示することができます

おためしでNiとCrの酸化反応についてのEllingham Diagramを表示させてみました
f:id:atomate:20160328140600p:plain

  • 例:反応 3 NiO + 2 Cr \longrightarrow 3 Ni + Cr_{2}O_{3}は、1000℃において自発的に進行するでしょうか

上のEllingham Diagramで反応の進行の是非を読み取ってみましょう

と見てみると、図上ではすべての温度にわたってCrの酸化反応の \Delta G^{\circ}のプロットがNiのそれを下回っていることがわかります
つまりCrの酸化反応の方が安定に起こるのですね
この反応は1000℃だろうが500℃だろうが関係なく自発的に進行することが読み取れるかと思います

  • 例:反応 2Fe_{2}O_{3} + 3C \longrightarrow 4 Fe + 3CO_{2}は、1000℃において自発的に進行するでしょうかf:id:atomate:20160328142548p:plain

このようにプロットが交差している場合は、途中のある温度で進行するかしないかが変わってきます
0KではFeのプロットの方が下ですが、1000℃すなわち1273KあたりではCのプロットのほうがFeよりも下にあります
つまり低温では自発的な進行は起こりませんが、1000℃では自発的に進行すると考えられます

エントロピー変化を求める

エントロピー変化についてまだ書いていなかったので、簡単にまとめたいと思います
結論から言うと
 \Delta S = \int \frac{C_p}{T}dT
で計算できるのですが、導出までちゃんと書こうと思うと少し詰まってしまいました
僕が苦手な可逆過程、不可逆過程について理解しなければならないようです

まずClaudiusの定義によれば、エントロピー変化は
 \Delta S = \frac{Q_{rev}}{T}
で表されますが、ここで添字revが付いているのは、エントロピー変化がわかるのは可逆過程においてのみだからです

それでは可逆過程とは何でしょうか

  • 可逆過程

無限にゆっくり熱が加えられ、温度の変化がないので仕事 =Q_{in}となります
系のエントロピー変化は Q/T、外界のエントロピー変化は -Q/Tとなり和は0です

  • 不可逆過程

状態Aから状態Bへの変化に対し任意の熱量 Q(\lt Q_{rev})が発生します
不可逆過程では系のエントロピー変化は Q/Tですが外界のエントロピー変化は Q_{rev}/Tとなり、和をとると全体のエントロピー変化>0となってしまいます


ここで自由エネルギーとこれらの対応について考えます
 \Delta G = \Delta H - T\Delta S = \Delta U + p\Delta V -T\Delta S
 = Q + W + p\Delta V -T\Delta S = Q - T\Delta S
 (\because W = -p\Delta V)
 = Q - Q_{rev}

つまり可逆過程では \Delta G = 0
不可逆過程では \Delta G \lt 0


可逆過程を想定すると、 \Delta G = 0
すなわち \Delta S = \Delta H/T = \int \frac{C_p}{T}dTとなり
上で書いた
 \Delta S = \int \frac{C_p}{T}dT
が導かれることになります